読売新聞作成のビジュアル(動的グラフ)など、力の入ってる記事だと思う。
法政大学教授 白鳥浩
2016年04月19日 11時47分
今年7月の参議院選挙から、18歳、19歳の若者が選挙権を手にし、70年ぶりに参政権が拡大する。政治参加の不平等といえば、これまで票の価値が地域によって異なる「一票の格差」が注目されてきたが、世代間の格差についてはどうだろうか。選挙データを分析し、作成した下のビジュアルをご覧いただきたい。若者の声が政治に反映されなくなる一方、高齢者の発言力が高まっていることがおわかりいただけるだろう(2ページ目に詳述)。「18歳選挙権」は、こうした流れを変えるきっかけとなるのだろうか。白鳥教授に寄稿してもらった。
※過去の参院選における投票者の年代別データを分析したビジュアル(読売新聞作成)。割合でも実数でも、若者が減り、高齢者が増えてきていることがわかる。
地域による「水平格差」、個人の属性に基づく「垂直格差」
2016年は、選挙の年である。夏に参院選が予定されている。
この選挙から、いくつかの大きな制度的な変更がある。「一票の格差」をめぐる議席の調整により、県選挙区をまたいだ合区で初めての選挙が行われる。
だが、何といっても、この夏の参院選において注目すべきは、「18歳選挙権」の導入であろう。合区が地理的な「水平的な格差」の是正であるとするならば、この「18歳選挙権」の導入は、年齢という個人の属性にまつわる「垂直的な格差」の是正としてとらえることができる。
「一票の格差」といえば、選挙区における議員1人あたりの当選に必要な有権者の数、すなわち「一票の価値」に焦点が当たることが多いが、その本質は政治参加の機会が平等かということである。若年層世代の声が他の世代に比べて届きにくくなっているならば、「18歳選挙権」を導入して若年層世代の有権者を増やすのは当然の対応といえる。
日本民主主義の「第三の波」とは
この「18歳選挙権」の導入は、果たして日本政治にどういった意味をもたらすのか。
現代世界の民主主義の展開において、かつて米国の国際政治学者、サミュエル・ハンチントンは「波」といわれる、いくつかの段階が存在することを提起した。その議論を視野に入れると、「18歳選挙権」の導入は、日本の選挙制度における「第三の波」と理解することができるのではないだろうか。
「第一の波」としての、大正デモクラシーを背景とした大正期の1925年の男子普通選挙権の導入。「第二の波」としての、戦後の現行憲法のもとでの昭和期の1945年の女性参政権の導入といった二つの「波」に続くものだ。
大正期の「第一の波」は、「経済的な格差」を是正するものであり、昭和期の「第二の波」は、「性差(ジェンダー)による格差」を是正するものであった。平成期の「第三の波」としての2015年の「18歳選挙権」の成立、そして今年2016年からの実施は、年齢に基づく「世代による格差」を是正するものといえる。
これら「三つの波」は、財産や性別、年齢といった有権者個人の属性という「垂直的な格差」を是正するもので、日本の民主主義の展開において、大きな意義がある。
新たに生まれる240万人の有権者
大正期の「第一の波」は、裕福な層に限定されていた選挙権を納税基準の撤廃によって、25歳以上のすべての成年男子を対象にした。この結果、人口の5%ほどの300万人から、20%余りの1200万人へと、有権者は4倍に増えた。
昭和期の「第二の波」は、20歳以上のすべての男女に選挙権を付与することによって、当時の人口の約半分である3600万人余りの有権者を誕生させた。平成期の「第三の波」は、18歳以上を有権者として加えることで、新たに人口の2%ほどの240万人余りの若年層有権者を誕生させる。これは数としては少ないが、これまでより早い段階で政治に参加する機会を与えられるという意味で、日本政治を大きく変えていく可能性を持っている。
しかし、若年層の20歳代の人口1300万人に対して、高齢者層の60歳代の人口は1800万人と、絶対数で1.4倍近い。その上、最近の選挙における世代別の投票率に目をやると、60歳代の高齢者層が6割を超えるのに対して、世代が若くなるにつれて低下し、20歳代の若年層は3割台にとどまる。その差は2倍の開きがある。
しぼむ若者、膨らむ高齢者
さらにデータを詳しくみる。総務省はこれまでの参議院選挙で、各都道府県で標準的な投票率を示す地区を抽出し、年齢ごとの投票行動を調べてきた。全年代の投票者合計に占める年代別の割合を1989年と2013年で比べると、若い層と高齢層の政治参加の違いは歴然だ。20歳代は12%から8%に、30歳代も18%から12%に減った。これに対して、70歳以上は12%から25%に倍増し、60歳代も17%から22%に増えている(上のビジュアルの円グラフ参照)。
それぞれの選挙について、直近の人口をもとに年代ごとの投票者数を計算し、同じく1989年と2013年を比較してみる。20歳代は800万人から458万人に、30歳代は1096万人から793万人に、それぞれ減っている。一方、70歳以上は653万人から1231万人に、60歳代は946万人から1232万人へと、伸びている。(上のビジュアルの棒グラフ参照)
データ分析からわかるのは、比率においても絶対数においても、若い人の声が選挙結果に反映されなくなってきたのに対して、高齢層が影響力を増してきたという現実だ。
地域的には高齢者層の人口割合が高い地方の投票率は、若年層の割合が高い都市よりも上である。そこで政党の側では、絶対的に数が少なく、投票にも行かない都市の若年層よりも、「票に結びつく」地方の高齢者層向けの福祉や介護などの政策を提起しがちであった。
若年層は政治的知識の蓄積が十分ではないため、自らの利害に無自覚であり、声をあげて政治に参加することもなく、都市における非正規雇用の増大や、保育園などの育児環境の問題などを政治につなげられなかった。
政党の側も、若年層の声をすくい上げる仕組みがないため、政策を争点化することが困難であった。そこで、「世代による格差」のなかで、若年層は政策的に置き去りにされてきた。端的に言って「若い人は損をしてきた」のかもしれない。
18歳選挙権は起爆剤となるか
こうした「世代による格差」が存在するにもかかわらず、若年層は無自覚であった。この「18歳選挙権」の導入は、若年層に世代的な利害の存在を気付かせる可能性がある。
かつて政治学者の内田満は、若年層と高齢者層との世代間の対立を「シルバーデモクラシー」という言葉で表現した。この世代間の対立は、これまで明示的ではなかったが、それが「18歳選挙権」の付与によって先鋭化され、若年層が自らの世代の利害を訴え、投票行動を行うようになれば、一気に表面化するだろう。そして、それは18、19歳の新有権者を迎えることで、さらに活気づく。そうした意味で「18歳選挙権」の導入は、日本政治を大きく変容させるきっかけとなるかもしれない。
だが、単に18歳から投票できるようになったからといって、ただちに若者が政治に向き合うようになるとは限らない。若年層が政治に関心を持つためには、このほかにも様々に変えていかなければいけないことがある。
若年層の20歳代の時点で投票という政治参加をしなかった有権者は、その後も投票しないのであろうか。参院選の投票結果の時系列的な投票者数の動向をみると、1989年に20歳代だった有権者のうちの投票者数は800万人であった。それが2010年の選挙時点で40歳代となった、同じ集団の投票者数は1000万人ほどに増加していた。ところが、それ以外の年代では著しい変化は見られなかった。すなわち、89年に20歳代であった若年層は、年齢を重ねることで、政治的知識を蓄積して政治参加の重要性を認識し、徐々に投票を行うようになっていったことがみてとれる。
若者の政治参加に必要なことは
こうした状況から、若年層が政治に関心を持つための課題を考えてみたい。
まず、政党の側が選挙において若年層向けの政策を提起する必要がある。同時に、若年層の側でも政治を普通に話す、政治を「日常化」していく、普段着を着るように政治を話す、といった「カジュアル・ポリティックス」とでもいうべき実践が重要になる。
国家に革命を起こすような大それたことではなく、身近な政治的な話題、知識を話し合い、共有する。そうした経験を積み重ねていく、政治がいかに身近な生活課題を解決していくか、政治に参加することが大切なことかということを理解していくことになる。
海外では、若年層が子育て支援などの身近なNPOのワークショップに参加することで、問題の政治的解決の重要性に目覚め、投票などの政治参加を積極的に行うようになったという事例をよく聞く。小説家の真山仁が「我々のすぐそばで政治をやっている、という感覚が強まっている」と述べていることは、こうした「カジュアル・ポリティックス」を実践する下地になる。
損してきた若者たち、普段着で政治を語ろう
若年層は、これまで自らの世代的な利害に無自覚であったために、圧倒的に政治的情報への接触が少なかった。彼らが一時の熱情や扇動によって政治選択を行うことのないよう、時間をかけて多様な政治的情報を入手できる環境を整える必要がある。
例えば、筆者が滞在していた英国のオックスフォードでは、02年から中等教育課程で日本の主権者教育に当たるシチズンシップ教育が必修となった。シチズンシップ教育の目的は、複雑化する現代社会において、市民としての役割を将来担う人材を育成することである。また、各種NPOも若年層に対して、政治によって決定される政策について関心を持ってもらおうと活動していた。
日本でも、総務省や各都道府県の選挙管理委員会の「官」の側だけでなく、明るい選挙推進協会や各種NPO、さらには、大学の政治学の研究者や、日本地方政治学会・日本地域政治学会など「民」の側からも、若年層に政治情報が提供されている。
高校や地域への出前授業や学会のシンポジウム開催などの活動は、今後も注目されるべきである。政党の側も、都市における待機児童の子育て政策、非正規雇用対策など、若年層向けの政策や、身近な争点を提起する必要がある。
日本政治における「第三の波」としての「18歳選挙権」の導入は、新たな政治的関心を若年層に呼び起こし、将来における若年層の政治参加を進めることができる。日本政治を大きく変えていく可能性をもった制度的な変化である。
まずは投票を通じて政治参加する制度を若年層は与えられた。世代間の格差是正に向けて、自らの意思を表明し、より望ましい日本の民主主義を形作っていくために、今後は「カジュアル・ポリティックス」の実践や、主権者教育等が強く望まれる。「18歳選挙権」の導入によって、今後日本政治がどのように変容していくのか、有権者の一人として、期待しながら展開を見守っていきたい。
プロフィル
白鳥浩( しらとり・ひろし )
法政大学教授・政治学博士。日本地方政治学会・日本地域政治学会理事長。法政大学大学院政策科学研究所所長。専攻は現代政治分析論。編著書に『政権交代選挙の政治学』『衆参ねじれ選挙の政治学』『都市対地方の日本政治―現代政治の構造変動』など。
これまでの人生で、同年代と政治の話をできた記憶がほとんどない。そんな話を持ち出そうとしてもなんかすぐお断りされたというか政治ネタを持ち出すやつダサイみたいな雰囲気が蔓延ってる感があった。あれは凄く嫌だった。政治ネタを話したのって大学卒論を監修してくださった社会人の方と雑談で…と、高校で1~2人と軽く、ぐらいか。
「政治ネタってダサイ」を蔓延らせてるやつが若年層にも沸いてるかもしれないけど、かといってニコ動みたいな大日本洗脳が蔓延るのも問題だしなぁ…という。
それと別に、若年層にアピールした政策が少ない…のはまあどうしようもないけど、選挙に行った若年層へハイリターンな政策ができれば起爆剤になるんじゃないかなとも思ったり。30歳以下で選挙で投票をしたり、党員になるか立候補をすると消費税や所得税を2%軽減します&大学の学費・留学の費用負担を軽減します&子供手当を増額します、的な。(これの実現にマイナンバーカード連動の消費税負担還付制度な財務省案は利用できたかもしれないなとも思って、断念されてしまって惜しい。)